2008年06月08日

風の古道(夜市)恒川光太郎



 「夜市」の特異な仕上がりに手応えがあったので、この作品にも期待していました。
 
 こちらの作品も、なかなかよかった。
 風の古道の方が、出来はいい感じです。

 夜市よりも丁寧に書き込まれていたように読めました。
 「古道」にも「夜市」に通じる異様さと、記憶とか憧憬のような懐かしさみたいなものが混ざり合っていました。

 「古道」に何か著者のイメージが託されてるんでしょう。
 友だちと冒険する道、行き場のない者が放浪する道、物の怪が徘徊する道・・・色んなメッセージがあるはず。

 もっとこの作者の背景を理解しないと。
 
 自分にとって、この作品の魅力は、風が吹いている印象の古い道です。
 相棒レンの記憶を少しずつ紐解きながら、親友の命を取り戻す冒険をする道に命を吹き込んでいくような・・・そのあたりの展開の仕方はとても心地よく、この小説の魅力そのもの。

 自分(読者)の中に息づき始めた「古道」に、たくさんの物の怪が行き交い、挙げ句に親友のカズキが旅立つ(彷徨い出す)くだりでは、何か力強さみたいなものがあって、哀しさよりも前向きな意志を感じました。

 タイトルの「風の」古道もしっくりきました。
 力強く前向きな「風」、歩く二人が少年だったこともいい。

 色んな要素が巧く噛み合った小説です。
 よかった。

posted by 雪になあれ at 22:21| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 恒川光太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月04日

夜市 恒川光太郎



 夜市
 恒川光太郎
 角川書店 (ISBN:978-4-04-389201-3)
 発行年月 2008年05月

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 日本ホラー小説大賞を受賞したときから気にしていた本。
 文庫化されて平積みされているのを見て、久しぶりに読書したくなった。

 筋を書いてしまうと、推理小説のような謎解きになってしまうので、紹介記事の範囲で止めたいと思う。

 主人公には現在、大学2年生のかつての同級生がいる設定。
 少年の頃に「弟」と引き替えに自分の「夢」を買うが、辛い記憶が積み重なる人生を過ごし、いつしかその「弟」を買い戻しに再び「夜市」へ踏み入れる・・・・というもの

 読み手を引き込む設定は完璧です、岬の森の中で開かれている市、妖怪が営む露店、主人公の悔恨の情、妖怪との取り引き

 これ以上は書けないけれども、「弟」の淡い兄弟や母との思い出、「弟」の心の闇と希望・・・

 設定はホラーとも言えるし、ファンタジーとも言える、間違いなく。
 ただストーリーは、もっと「情」に訴える代物、描かれる幾つかの取り引きは人間の欲そのもので、それを妖怪に担わせているところも異様な雰囲気を際だたせている。

 「夜市」に掛けられる暗示は底が深くて多面的で、読者には深い森をイメージさせながら、遠い記憶への憧憬や母親への思慕のような・・・こそばゆい感覚を植え付けてくる。

 ラストに「いずみ」に語り聴かせる真実、岬の灯台のふもとで。
 どこまでも絵画的で遠い記憶の中にいるような空気感でした。


 自分としては、この小説で惜しいと思うのは中編小説であることかも・・・ホラー小説大賞に原稿枚数の規制があるのかもしれない。

 少し展開が早いような、もしかすると、その展開の早さがホラー感を産みだしてるのかも知れないが。

 長編でじっくりと風景や登場人物を書き込んだ「夜市」にも出会ってみたい、「夜市」の森から抜け出して岬に立った「いずみ」に語られる真実をもう一度読んでみたい。


 この作家の他の作品もいつか読んでみよう。

  • 『雷の季節の終わりに』角川書店2006年10月
     ISBN 978-4-04-873741-8

  • 『秋の牢獄』角川書店2007年10月
     ISBN 978-4-04-873805-7

  • posted by 雪になあれ at 22:41| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | 恒川光太郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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