2007年07月08日

猛スピードで母は



 猛スピードで母は
 長嶋有
 ○文藝春秋
 文庫2005年2月
 単行本2002年2月
 ○初出
 サイドカーに犬 文学界2001年6月号
 猛スピードで母は 文学界2001年11月号

 070708001.jpg

 昨日読破して、思い出しながら感想など。
 この作品も、『サイドカーに犬』と似たような感じです、そしていい、素晴らしいです。

 2作品とも月並みなストーリーなんだけど、共感できて作者が言わんとしてることを吸収できる。

 サイドカーに犬とは、正反対の『』から始まります。

 冒頭に登場人物の紹介がてら、書き出す冬用タイヤの装着、最後の1本を慎に締めさせる、慎はしっかり『出来た』と思うのに、ナットを締め切れていなかった・・・

 この伏線が最後のたばこの吸い殻を窓から投げ捨てるシーンに繋がっていました。

 『海』の始まりか終点である海岸線のテトラポッドの合間に消えていく、投げる慎はここで『ナット』を緩みなく締められたのだと感じた。

 物語の経過にある、祖父母との関わり、母の恋人慎一との関わり、これも何故か『対比』として読まされました。

 祖父母はしっかり心配事を言葉にする、慎一との絡みは雰囲気で読ませる・・・決して子供(慎)が原因で分かれたとはしない・・・

 長嶋有さんという作家は、そんな全体のバランスを大切にしていると思った。

 そして印象的なのは、『余韻』です。
 2作品とも、読後感をいつまでも味わっていられる。

 考えないといけないから、というだけではなく、心地いいからです。
 シリアスな展開なのに、後味がいいのは希望があるからだと思う、その希望をハッキリ書いているわけでもないのに、読者は自然とそんな展開(後日談)を容易に想像できる。

 テトラポッドの向こうにあるモノに期待できるから・・・
 
 読者をそんな気持ちにさせるのに、読む側の気持ちの推移を図りながら伏線をプロットしていく作者の意志が汲み取れます。

 小説全体を見通しながら書いている、そんな気がします。

 そして肝心なタイトルに託した作者の気持ち・・・ここが一番感動しないわけにはいかない、となるんでしょうね。

 『猛スピード』なのは、シビックをかっとばすから・・・
 もうひとつの『猛スピード』は、悩みを吹き飛ばす(かっとばす)強い意志なんだと思いました。

 いじめられている息子に、そんなことを問いたださない思いやりのある母親、恋人との結婚より息子を大切にする潔い母親・・・母親に心配をかけまいとする成長した息子・・・

 どれをとっても強い意志が、逆境を『猛スピード』で解決していく、母親が大好きなワーゲンをきっぱりと追い抜くように・・・

 自分としては、この2作品とも芥川賞クラスとしたいです、はい。
 長嶋有さんという作家、しっかり刻み込まれました。

posted by 雪になあれ at 14:13| 埼玉 🌁| Comment(1) | TrackBack(1) | 長嶋有 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月06日

サイドカーに犬  読みました



 サイドカーに犬

 
 ほんのりと面白かった、両親が離婚して父親が窃盗で逮捕され行方知れず・・・なんてシリアス極まりないのに、この読後感は何なのか。

 恐らく作者の思い出(記憶)の中にあるアイテムを器用に小説にちりばめていて、それが効果的なのかもしれない・・・いや実はそれらの思い出がこの小説の本質と考えた方が合点がいくか。

 冒頭と結びに登場する『麦チョコ』、記憶のアイテムの中で特筆すべきもの・・・大人になった薫が弟を迎えに行く途中で見つけた『麦チョコ』、共有する思い出の中心は『エサ』だった『麦チョコ』で、弟もすぐに思い出の中に・・・なんとまあテンポのいいこと。

 もうひとつの思い出の核は、自転車のサドルです。
 サドルをすげ替えるヨーコさんとの屈託のない会話、サドルの不思議さをヨーコさんの不思議さと重ねる手法、短編なのにぐいぐいと登場人物に吸い込まれていく、心地いいほどに・・・

 そして、自分がもっとも爽快に感じたのは、父と帰らない母と行った海で見た『サイドカー』と『犬』の回想シーンでした。

 大変な思い出の夏のはずなのに、甘酸っぱいような大切な思い出の夏にすり替わる象徴的な思い出として、サイドカーに乗る犬を登場させています。

 そんな大切な思い出を共有する弟は、サイドカーに興味を持ち、姉の薫はサイドカーに乗る『犬』を格好いいと感じる。

 そんなふたりの僅かな感性の違いが、思い出の夏のあとの成長の過程の差異を暗示させたりする。

 麦チョコが食器で奏でる音、50円玉で作った偽の100円玉が鳴らす自販機のブザーも効果的でした。

 この話を『夏』に絡めたところもいい、弟が最後に放つ姉へのセリフも色んな想像が膨らんでいく・・・

 とてもバランスがいい、出来すぎと言いたい。

 やっぱり映画見たくなった、どうしても見たい!

posted by 雪になあれ at 00:24| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 長嶋有 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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