2007年10月10日

君たちに明日はない 垣根涼介



 君たちに明日はない 垣根涼介著
 新潮社 (ISBN:978-4-10-132971-0)
 発行年月 2007年10月

 071009001.jpg

 恐れ入った、とはこのことだと思った。
 垣根作品が文庫化され平積みにされていたので、ノータイムで手に取っていた。

 読み始めは、普段のハードボイルドっぽさもない落ち着いた雰囲気で肩すかしをくらっているような感覚・・・も束の間、すぐに今回書こうとしている面白さを実感した。

 著者自身もあとがきの冒頭に書いているとおり、『小説は、魅力的な人物像を描くことがもっとも重要』という点を再認識させられた作品でした。

 普段からそのポイントは読者として認識していたつもり、垣根作品のどの小説も魅力的な登場人物に読まされていることを・・・

 この小説の設定は非常に面白い。
 人物像をより鮮明にするために用いた設定だと思われるが、著者が設定したフィールドで活躍(暗躍)する主人公や『明日はない』を突きつけられる登場人物たちの魅力を掘り下げるのに一役買っている。

 人が人に親近感を覚えるのは、その人物の喜怒哀楽を垣間見るときで、すました態度や冷静な対応ではピンとこない。

 その点、会社から首を切られる話を外部委託先の若造に冷静に話されては、いくら人徳のある人でも素で怒ってしまうし、泣きも入ろうというもの。

 そんな素が引き出せる設定を持ってきた著者、千差万別な明日はない登場人物たちなのに、その日常はどこか似通っている。

 そんな風に感じるのは、皆感情的になるからなのか。
 親近感も湧いて、自分を投影できる、そこがまた面白さを倍加してると思う。

 もうひとつは垣根さん得意の恋愛模様もいい。
 人物像を読者に刷り込むためには、恋愛話も重要、どんな男(女)が好きで、どんな性が趣味か。

 主人公 真介にふたりの年上の恋人を登場させ、最後にその二人を絡めるエピソードで締めくくる・・・
 偶然が醸し出す余韻の効果、最後の最後が主人公の恋人 陽子の視点・・・

 小説なのに、活字を読んでいるのに、映像を見せられているほどの説得力がある。
 素晴らしいとしか言えない。

 そしてこの小説にも垣根さんが過ごした筑波大学が登場した、筑波サーキットあたりのくだりは自分もよく知っているだけに、垣根さんの学生時代に重なって、著者自身の経験が書かせているのかと思ったりした。

 車に詳しい小説も多い、著者自身、サーキットでオートバイや車を転がしていたのか・・・そんなことを想像してしまった。

 そしてもうひとつ、この小説に登場する年上の恋人・・・順子と陽子・・・彼女らも著者の経験なのか、そんな野暮なことを考えてしまった。

 そんな気にさせられるのも、読者への人物像の刷り込みが完璧な証拠。
 垣根作品は容赦なく面白い、全作品読破すると思う。
























posted by 雪になあれ at 00:18| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 垣根涼介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月11日

サウダージ 感想再び



 昨日読みきった垣根涼介著『サウダージ』、本を読んだ時くらいTBしたいと思い、この本の感想を書いているブログを検索してみました。

 中途半端な時期のせいか、最近感想を書いているブログはほとんどなく、数ヶ月前のブログにしかヒットしなかったのでTBは遠慮しました。

 いくつか感想書いているブログを読んでいると、『私にとっては18禁』と書いている人がいて、思わず笑ってしまった。

 その方は連作の『ヒートアイランド』も読まれていて、こっちは『16禁』となっていて、さらに笑った。

 なるほどそのとおり、同感でした。
 その方は女性だと思う、好意的な感想を書かれていて、やはり垣根作品は男女間の描写が嫌味にならず受け入れられるんだと思った。

 垣根さんの男女間の描写は悪く言えばえげつない、しかしそのえげつなさにも加減があって、『ヒートアイランド』より『サウダージ』の方がよりえげつなかった


 そして改めて思った。
 
 垣根さんの文章はよく練られている印象があって、その男女間の描写にも計算があるような気がしてきた。

 今回の『サウダージ』、あのクールなアキにしろ、心身ともに排他的な関根にしろ、同じように好きな女に馬鹿な男として振舞ってしまう。

 馬鹿な男になる動機を理解するのに、あのえげつなさが寄与していた。
 実はその馬鹿さ加減がこの話をいい感じに収束させてもいた。

 そして垣根さんの千里眼は、『ヒートアイランド』で脇役だった柿沢や桃井にシリーズが進むにつれ、その人間性を発揮させ、クールなアキに普通の青年のような恋愛(日常)を経験をさせるわけです。

 入念な取材で裏付けられたリアル感、場面展開のスピード感、明け透けな会話と(男女間の)機微を探り合う会話、どれもこれも垣根作品を構成する要素としてよく図られている。

 垣根さんの作家としての資質は底知れないと改めて感じました。
 
 垣根さんの『書くに至る理由』・・・垣根作品愛読者ならこれは是非読んでおきたい。

posted by 雪になあれ at 21:50| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 垣根涼介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年04月09日

サウダージ 垣根涼介



 サウダージ 垣根涼介
 2004年8月10日第一刷
 文藝春秋

 31411864.jpg

 垣根涼介さんのHPに紹介がありました。
「別冊文藝春秋」に、一年にわたり連載してきた長編小説。
 最終回は2004年の五月号・・・となっていました。

 ヒートアイランド、ギャングスターレッスンを受け取って続く今回の小説、当然舞台となるのは東京と茨城、千葉も引用していた。

 垣根さんは長崎から筑波大学のある茨城県に出てきた経緯があって、一連の小説を読む限り、茨城や埼玉をとんでもないところとして舞台設定している。

 これはやはり長崎から見たら、埼玉も茨城千葉も首都圏でもう少し都会っぽい場所としてイメージがあったからではないか。

 大学に出てきて、羽田空港から(若しくは東京駅から)つくば学園都市に向かいながら、なんと辺鄙な場所だろうというトラウマがあるのかもしれない。


 この物語には対照的な男女間の恋愛が登場する、関根とDDのとアキと和子のです。

 関根もアキも半端者なのに、ふたつの恋愛の形が対照的に読めるのは、DDと和子の化粧の描写と登場の仕方に差異があるからだと思った。

 ヌード小屋を訪ねる関根が見るDD、スポーツクラブで桃井越しにアキが見る和子・・・

 特に和子との初デートの描写がよかった。

 それまですっぴんでジーンズとTシャツ姿しか見たことのない和子は、『眉山を整え、嫌味にならない程度のアイシャドウに下目蓋の際のかすかなアイライン、唇はナチュラルレッド。耳にはエメラルドグリーンの小さなイヤリング』としていて、そんな和子にアキはなんとなく嬉しくなる。

 すべて控えめな印象を書き連ねた垣根さん、なかなか女性へのリクエストはうるさい方かもしれない。

 こんな風に対照的な印象を植え付けられるが、どちらも偏愛として書かれているようにも読める。

 前半から暴力と官能とも言えないくらい強烈な性的な描写が連発するが、なぜだか垣根さんの文章だと許せてしまう。

 男の書く小説にしろ漫画にしろ、どうしても性と暴力に訴えてしまい読む気が失せることが多々あるが、垣根ワールドだと許せてしまうのだ、この感覚はおそらく自分だけではないはず、そこが人気作家の所以なんだと思う。

 その答えはこの小説にあるような気がする、垣根さんがこの小説の最後に持ってきた関根の想いや柿沢たちの気概、そして最後の最後、和子にたしなめられるアキとの会話・・・

 『自分を疑わない男』和子は少し笑いながらアキにそう告げ、最後に慈しむような時間を過ごさせる。

 単純で粗野な男、そんな男全てに投げかけられた和子からの言葉、肝に銘じたい。

 この小説は垣根さん自身が楽しんでいる、底抜けに楽しい小説、そんな印象でした。

 面白い。

posted by 雪になあれ at 23:07| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 垣根涼介 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。