2007年11月30日

夜明けの縁をさ迷う人々 小川洋子



 夜明けの縁をさ迷う人々
 小川洋子著
 出版社名 角川書店 (ISBN:978-4-04-873792-0)
 発行年月 2007年08月

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 この本も何だかよく分からないっていうのが正直な感想なんですが、やっぱり第1話と最終話で題材を「野球」にしていることと、その「野球」への視点の違いが気になりました。

 『曲芸と野球』では、野球をしている「僕」が、「曲芸師」を見ています、「再試合」では、「私」がレフトを守る(野球をする)「彼」を見ています。

 読み終わって、そんなことを感じてみると、やっぱりこの本は9話全体で小川洋子さんの気持ちが語られているんだ、と思えてきました。

 全9話は「野性時代」に2006年7月号から翌3月号まで毎月掲載されていた作品で、単行本化でも並び順はそのまま。
 連載を始めるときに、この9話の構想があったと考えるのが自然だと思った。

 どの作品も「異様」なんですが、小川作品を読んでいる人には「異様」ではなくて「尋常」に読めているはず、自分もそうでした。
 第5話の『涙売り』などは、小川作品としては当たり前、朝飯前くらいのノリでした。

 これらの作品群は、まさに小川洋子さんが旅している小説の世界観そのものです、ヨーロッパの混沌としていた時代への特別な思い、そこから培ってきた死生観、思い出の核にある「野球」・・・自身の記憶と想像を絡めながら書く著者のスタイルです。

 最終話に出てくる「切り株」・・・これは特別な思い出かも、なんて想像もしています。

 自身の高校時代の思い出かも知れないし、野球を始めた息子さんを観戦するときのスタイルだったりするのかも知れません。
 だから試合が終わらない(終わって欲しくない、いつまでも観戦していたい)のかもしれない。

 6話までは自然に読めた気がしてます、それは時間が普通に流れているからなんでしょうね。
 時間軸がねじれていたり、巻き戻されたりしていません。

 7話も基本的にはそうなんですが、この話あたりから徐々に小川ワールドが炸裂してきた感じです・・・遺品の「本」にそれらの行為が記されていて、その行為を本人から語って聞かされるなんて、そしてその死後に「本」を読まされることになる。

 いつその場面が活字として顕れるのか、非常に効果的な構成で小川洋子さんの力量を感じる作品でした。

 そして最後の2話は印象的です、『銀山の狩猟小屋』は山小屋の管理人の狂気の世界のようだけども、もっと違うテーマがあったように感じました。

 山を一つ越えた先にある山に建つ小屋、「サンバカツギ(産婆担ぎ?、産婆をかつぐ?)」を狩猟に行く男は外から鍵を掛けてしまい、銃を撃っていますが、それは外の世界で、山小屋の中は私とJ君の世界でした。

 外では赤子の声がして、小屋の中ではJ君に抱きしめられる私がいて、血液の匂いがします、まさにこれは「子宮」の内部のような気がしました。

 「子宮」の内部では時間が逆に流れようとしているのかな、と。
 J君が私の中に戻ろう(赤ちゃんに還ろう)としているような、閉じられた山小屋が安心感を与えているように読めました。

 「再試合」でも同じでした、どんな時間が流れているのか???です。
 ただ「私」の夢の世界だと感じました、この感覚はかつてみたアニメ「ビューティフルドリーマー(うる星やつら)」に重なりました。

 大好きな(大切な)時間の中にずっといたい、切り株に座って・・・
 応援団体バスに乗って辿り着いた甲子園の描写には、著者に力が入っていたようです。
 自身の初甲子園の描写なのかも・・・

 「私」と、67年前に甲子園に出場したときの顧問で、今は103歳の前歯が1本しかない「老人(♂)」との関係はよく分かりませんでした。
 この二人は重なっているのかな、とも思いましたが、「私」はカレーが付いたブラウスを身に付けている(♀)ので、容易には重ねられないと思いました。

 ただ大切な思い出である「切り株」は苔に覆われ、「私」の前歯も1本になっていて、時間は相当動いているはず、進んでいるのか遡っているのかは不明でしたが。

 最後の2話の構成にはそんな共通点があるような気がして、著者がこの連載で書こうとした事が理解できたような気になりました。

 自分が感じている小川洋子さんの「今」は、安定期です。
 ミーナの行進を書き上げ、最終的に書くと思われるアンネと自分の死を書くまでにはまだまだ時間がありそうです。

 全体的に母性的な印象の作品が多いことを考えると、自分としては勝手に合点がいきます。
 これらの作品の異様さは小川作品では普通ですから、というか好調そのものですね。

 そしてこのタイトル「夜明けの縁をさ迷う人々」は、少なくとも小説に登場した曲芸師やD子、イービーや涙売りたちのことだけではなく、小川洋子さん自身なんだろうな、と思ったりしました。

 小川洋子さんの創造力と構成力を改めて感じられた作品でした。
 満足しました。

posted by 雪になあれ at 00:19| 埼玉 雨| Comment(9) | TrackBack(5) | 小説−小川洋子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こちらからもTBさせていただきました。

チラッと覗かせていただきましたが、素敵なブログですね。採り上げられている作家陣に興味津々です。時間をとってじっくり読ませていただきます。今後ともよろしくお願いします。
Posted by bobbida at 2007年11月30日 01:35
こんばんは。
短篇の醍醐味を楽しめ小川ワールドでしたね。
迎える結末は、まったく予想がつかなくて、
気がつけば静かな世界に佇んでいました。
Posted by 藍色 at 2007年11月30日 03:54
bobbidaさんへ
あまり本を読む方ではないので、たまに読むと書き散らかしています。
こちらこそよろしくお願いします。


藍色さんへ
自分が読んだ本はほとんど読まれていて、凄い読書量にいつも感心しています。
やっぱりサンバカツギも気になりますけど野球はインパクトありますね。
Posted by 雪になあれ at 2007年12月01日 00:21
はじめまして。
トラックバックを有難うございました。
こちらからもトラックバックさせて頂きました。
丁寧な読み方をされていて、すごいなぁと思います。私は筋を追って「楽しい」とか「怖い」とか言うだけなんで・・。
今から他の記事などもゆっくり拝見させていただきます♪
Posted by hare at 2007年12月01日 11:39
hareさんへ
小川作品にはまりだして2年くらいになりました、小川作品は特に気合いを入れて読んでいるんですが、理解できない作品が多いですね。
ハレさんの2006年ベスト10の中にミーナの行進がありますね、チームバチスタとDIVEも読もうと思いながらそのままなので、そろそろ読もうかと思います。
また感想を読ませていただきます。
Posted by 雪になあれ at 2007年12月01日 20:31
こんばんは。
どの話も小川さんらしい短編でしたね。
読んでいるうちに小川さんが作り出す不思議な世界に引き込まれているような感じでした。
やっぱり小川ワールドはすごい。


Posted by mint at 2007年12月03日 19:36
mintさんへ
ようやくこの本を読むことが出来ました。
小川作品はしばらくこのスタイルでいくような気がしてきました。
そろそろ長編を読んでみたいと思ってますが、忙しそうなので暫くは我慢のしどころです。
それから・・・さいたまへようこそ。
あの辺をよく自分はさ迷ってます。
Posted by 雪になあれ at 2007年12月03日 20:53
2006年のベスト本も見てくださったのですね、有難うございます。
「チームバチスタ・・」は昨年最も面白い!と思った一冊でした。「DIVE!」も爽やかでした。ぜひ。
「ミーナの行進」は小川さん特有の危うさがないなぁと思っていたのですが、こちらの感想を拝見して「アンネ・フランク!」と思ったり、小川さんご自身が投影されていたのね〜と納得したりしました。
Posted by hare at 2007年12月03日 22:59
hareさんへ
ミーナの行進を読んだときは、もうあっちの世界へ昇天してましたね自分は。
小川洋子さんの気持ち(書く動機)そのものだと思ってました。
バチスタも映画化され文庫化されて、本屋さんでは一番目立つところに平積みされてますね、自分は読むのが遅くて読まれるべき本が順番待ちしてしてるので、いつになるか???なんです、が年内、うーん映画公開までに読みたいです。
Posted by 雪になあれ at 2007年12月03日 23:09
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