アンネの伝記
メリッサ・ミュラー著 畔上司訳
文芸春秋 1999年2月10日初刷
この本は、アンネフランクの日記の時期のみならず、アンネの生い立ちから命を閉じるまで、そしてアンネの家系、ヨーロッパで起きていた全てを書いた貴重な本です。
この本を著すための著者のエネルギーには感服しました。
これまであまり取り上げられなかったアンネの母エーディットに関する歴史が詳細に書かれている印象です。
これは訳者もあとがきにその印象を書いています。
『実はアンネの母が陰の中心人物ではないかと思われるほど、母親像が全面に大きく出てきている。』
著者自身も、『はじめに』と題して、次のように書いていました。
『この50年、母エーディットの実家ホーレンダー一族について、はっきりした輪郭が分からないままだった。・・・それを明確にすることが本書で追求した一大目標だった。』
本書は次の章分けの構成から分かるとおり、1944年8月4日の隠れ家から逮捕連行される様子から始まります。
第2章以降はアンネフランク生誕から時代を追いながら、戦後を迎えることが出来た関係者の証言を織り交ぜながら進んでいきます。
アンネの伝記 目次
はじめに
第1章 逮捕と連行
第2章 フランクフルト時代
第3章 出国
第4章 第二の故郷
第5章 殺人者がすぐそこに
第6章 八方ふさがり
第7章 隠れ家へ
第8章 後ろの家
第9章 死地への最終列車
第10章 あこがれ
エピローグ 関係者たちのその後
ミープ・ヒースのあとがき
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この本では密告に関する史実にまで言及しています。
密告者の声は女性であったこと、1階にあった会社の倉庫係が隠れ家の存在を嗅ぎつけたこと、倉庫係の配偶者が夫が隠匿の共犯になってしまうことを恐れていたこと・・・
明確に密告者だと断言は避けていましたが、これは何をかいわんや、ということでしょうか。
隠れ家の8人はオットー以外、戦後を迎えることは出来なかったわけで、そこの部分はやはり救いがない、ただ各人の誠実な思いを裏付ける事実が浮き彫りにされています。
アウシュビッツでオットーと別れたアンネたち女性3人は収容所で支えあっていたこと、アンネ姉妹と別れ一人きりになってしまったエーディットが夫や娘たちのために自分に配給されたパンを食べずに保管していたこと・・・
支援者たちの働きにも改めて感動します、支援者の中でもやはりミープは印象に残ります。
連行されてしまった8人の身柄を取り戻すべく、警察に赴く彼女についての記述があります。
何という勇気でしょうか、いやいやミープにとっては勇気を出すとか決意するとかそんな動機は必要ないんですね。
彼女にとってそれは当たり前のことで、この本に寄稿された『あとがき』でもアンネたちを救えなかった自分を悔やんでいます。
唯一生き抜くことが出来た父オットーフランクは、これまで読んできた本でも分かりますが、温和で誠実で信頼できる人柄です。
戦後、連行したナチ党員は判明していましたが、オットーは責めるどころか、『不当なことはなかった』と証言し、その党員には懲罰が下されなかったようです。
何ということか・・・と自分は感じました、復讐心を持つのは凡人なのかと思いました、自分なら許せないでしょう恐らく・・・
オットーの穏やかで公明正大な人柄は、生還してからも発揮され、戦中に関係があり生還した知人に尽力しています、ホント凄い方です。
自分はこの本を読んでやはり救われなかった史実を辛く感じました。
どうあってもそこだけは覆せない、これが小川洋子氏の持つ気持ちなんだと実感しています。
第9章冒頭にアンネがヴェステルボルグまで移動する車内から見える光景に釘付けになっている様子がオットーの証言から著されています。
『窓外に過ぎる光景、草地と畑、草をはむウシとヒツジに目が釘付けだった。
夏の色彩に圧倒されていたのだ。後ろの家の裏にはマロニエの樹があったが、あれ以外の緑にやっと再会できた。
ふたたびの、果てしなく広い空。それは後ろの家の天窓から見えた小さな切片ではなかった。
1944年8月8日の空は雲だらけだったとしても。』
アンネの日記からよく引用される、アンネの自然に対する『あこがれ』があります。
自分は、その日記とこの車窓の光景が重なって、いい歳して・・・でした。
ヴェステルボルグからアウシュビッツに向う車内から外の光景が見えたのかどうか、少なくともオットーの腕に抱かれながら移動していたと思う。
最後にミープ・ヒースのあとがきがあります、その中に印象に残った文章がありました。
彼女は、『この場をお借りして、誤解を一つ解いておきたい』と前置きして、こう書いています。
『アンネはホロコーストで犠牲になった六百万ユダヤ人の象徴だ、とはよく耳にする言葉ですが、このような言い方は間違いだと思うのです。
アンネの生と死は、一人の人間の生と死でした。六百万人の人々のそれぞれに、それぞれの生と死がありました。
・・・どの犠牲者も、一人一人がそれぞれの世界観と理想をもった別個の存在でした。どの犠牲者も、家族や友人にかけがえのない価値を持った存在でした。』
この本の率直な感想は、よく調べ上げていて、アンネの史実を知るには十分すぎるほどの価値があると思いました。
著者も訳者も、そしてミープも小川洋子氏も取り上げているアンネの日記にかかれているアンネの気持ちを改めて書いておこうと思います。
『わたしの望みは、死んだあともなお行きつづけること!』
『わたしの最大の望みは、将来ジャーナリストになり、やがては著名な作家になることです』
そしてミープは、これらのアンネの言葉を引用し、『あとがき』をこう結んでいました。
『アンネは、その日記を通じていまも生きつづけています。アンネは、悪と死に対する精神の勝利の象徴なのです。』
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kunioさんが忘れがたい、としている3冊の本、自分も同感でした。
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