2010年06月09日

ミラノ 霧の風景 須賀敦子



 ミラノ 霧の風景
 須賀 敦子
 白水Uブックス

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 この本を読んで、ほぼ須賀敦子さんの作品を読んだことになりました。
 「霧の風景」、タイトルからしてもう絵画的で旅情を誘う、作者は旅をしていたわけではなく生活の拠点があったわけなんですが、書く決心をするまでの長い時間にイタリアへの郷愁を募らせていたことが、この作品の趣を決定づけているような気がします。

 「郷愁」とするのは正直誤りなんでしょうが、そう表現したい、これほどの書き手が、19年もの間何をどう書けばいいのか迷っていたという気持ちを考えると、この本の価値は計り知れない。

 須賀さんにとって、イタリアでの13年間の密度はどの時代よりも濃くて、作者の書く動機はイタリアでの友人の思い出を記すこと。友人を書くことは、自分の「イタリア」を記録することなんだと感じました。

 これまで読んだ本でもそうでしたが、記憶が曖昧になっている部分はあっても、その友人の意志は確かなものとして記憶し、しっかりした文章で読者に伝えています。

 そして、この本はミラノの霧の記憶を友人の思い出とともに、うまく文章に織り交ぜています。
 序章では「遠い霧の匂い」と題して、濃い霧にまつわる幾つかの事件を紹介することから始めていて、冒頭から霧の中にいるような雰囲気を持っていました。

 特に最後の2話のまとまりに、自分はとてもいい文章を読んだ気がしています、これが須賀作品の真骨頂だと思いました。
 帰国して、20年近い時間を過ごす中で、便りをもらいイタリアの近況を知り、その中には訃報も多分にあったようです、またイタリアを再訪することもあれば、日本への訪問を受けることもあり、常に「イタリア」を感じながら生活している。

 そんな環境の中で書き続けたイタリア、自分もいつしか齢を重ね思い出が遠ざかっていく感覚は、友人が霧の中で見え隠れし、やがては霧の向こうに消えてしまうような寂寥感があります。

 そんな「霧の風景」を書いておきたかった須賀さんの気持ち、しかも19年も迷いながら到達した文章です。
 読んだ者なら皆、須賀さんにずっと書き続けて欲しかったと思わずにはいられない。

 その後も須賀さんの歩いたイタリアについて、本が刊行されているようだし、この味わいはまだまだ続いているということなんでしょう、書かれた文章と同じようにいつまでも余韻があります。

 自分は、「4冊」の中でこの作品が一番良かった。
 「地図のない道」「ユルスナールの靴」も良かった。

 未読の本をすべて読んだら、いつか須賀敦子作品について、まとめてみたい。



posted by 雪になあれ at 22:52| 埼玉 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | 須賀敦子 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
初めまして、本紹介ブログを出している「人生楽しみ」です。須賀敦子さんの書名を見て思わずコメントしてしましました。
須賀敦子さんの日本語と筆致は本当に素晴らしく、亡くなったことが本当に残念です。
宜しければ、当方のブログもご一読ください。
突然失礼しました。それでは、また記事を読ませていただきます。お元気で。
Posted by 人生楽しみ at 2010年06月09日 23:23
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